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良い意味でも、悪い意味でも、これがスコット・スミス。
「ルインズ〜廃墟の奥へ」 スコット・スミス著 「シンプル・プラン」のスコット・スミス、なんと13年ぶりの新作です。 通常、作家が処女作において大きな成功を収めた後、長いインターバルをおいて二作目が刊行されたと言うケースで、我々読者が抱く印象と言えば、いきなりの成功によるプレッシャーによる躊躇か、はたまたネタ切れか、と言ったところでしょう。 本作はずばり正にそのもの。そんな様相を呈する、非常に混乱した作品となっています。 面白く無いのか、と問われれば、決してそんな事はありません。 しかし、本作のレビューに入る前に、大成功を収めた著者の処女作「シンプル・プラン」についても語らないわけにはいかないでしょう。 皆さんご存知の通り、前作は1995年「このミス」の一位を圧倒的支持を持って獲得、その後サム・ライミによって映画化もされた大ベストセラーです。 同書について、私個人の感想を述べさせてもらえるなら、正直それほど好きな作品ではありません。簡単に要約しますと、偶然手に入れた大金を巡って、次々に登場するおバカさん達が、自らの首を絞めたあげく堕ちていく、と言った非常に「シンプル」なプロットを持つ小説です。そして読者は、そんなおバカな登場人物達のKY(最近、この言葉が「少し賢いふりしたい人達」に槍玉に挙げられ、さも空気を読めない事が自らの自主独立性を示す錦の御旗の様に掲げられておりますが、私としましてはこうした風潮にささやかながら異を唱えたく思っております。確かに、明らかに自分を卑下するかの様な同調や迎合はもってのほかですが、我々人間が社会的な動物である以上、いつでも自己主張を行えば良い等と言う事は決して無い筈です。それを行って良いのは、分別のつかない子供だけであって、それなりに成長した人間であれば、たとえ自分を殺してでも「空気を読」まねばならない時は必ずどこかに存在します。そう言った場において「空気を読」め無い人物が、周囲から注意なり、叱責を受けるのは当然なのではないでしょうか。であるのに、少し文化人を気取った若手芸能人や、或いは「知性」を見せびらかしたい評論家によって、こうした正反対のベクトルに免罪符が与える等と言うのは、社会を幼稚化させこそすれ、決して成熟させはしないのではないでしょうか。奇しくも、前出のサム・ライミ作品「スパイダー・マン」の中で語られる様に、力には責任が伴うのです。要は上記の様な発言をする人達は、権利と義務をはき違えているとしか思えないのです。)な行動や言動に、終始イライラさせられ続ける事が次第に快感になって来るのです。そんなある意味マゾヒスティックな小説で、確かに十分ページ・ターナーではあるのですが、同書には一つだけ致命的な欠陥があるのです。それは、作者の視点が、あくまで神の目線では無く、「賢明な人間」の目線である事です。この事により、登場人物の諸行動は、馬鹿げていると誰もが分かっているにもかかわらず行われ、その行動に至る彼らの心理的道程に読者は全く共感出来ないのです。つまり、作者自身も彼らが「バカだなぁ」と思って描いているのです。即ち、彼らを動かす作者も、彼らの行動に理解を寄せていない事に他なりません。こう言うシチュエーションにおいて、こう言う行動を起こす人物がいる、と言う絶対的な神の視点から彼らを描くのであれば、それはそれで読者としても諒解は可能であるのですが、この点において非常にぶれのある筆致である為に、単にイライラさせられてページを繰る手が止まらない「だけ」の、非常に底の浅い小説となってしまっているのです。 皮肉な事に、同書の映画化作品は、あくまでカメラのファインダーを通した客観的視点である事と、サム・ライミによる登場人物に依存しない突き放した演出も相まって大変な傑作となっていました。 そして本作ですが、今回も確かにページを繰る手は決して淀みません。 それでも、やはり「それだけ」です。 読み終わって抱く感想は「だから?」なのです。 帯にある様にスティーヴン・キングが絶賛する程の作品では無いと言わざるを得ません。 驚きも、共感も、リアリティーも、そうした全ての要素が余りにも中庸なのです。 その点で、キング自身によるごくシンプルな舞台設定とプロットを持つ大傑作「ジェラルドのゲーム」などと比較してみると、両者の力量の差は歴然としています。 キングは帯でこう言ってます。 「スコット・スミスは、桁外れの才能を持った作家だ」と。 しかし、裏返してみると、キングのこんな本音が透けて見えそうです。 「ただし、俺にはまだまだ及ばないけどな。」
by unit7of9
| 2008-03-12 15:06
| 本
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